平和な時代の野武士たち
建築雑誌で、新建築というものがある。その建築雑誌に寄稿した建築家の槇文彦が富永譲、長谷川逸子らの10~20歳年下の一部の建築家に名付けた名前だ。この世代には、安藤忠雄も入っている。意味としては、平和でこのまま流れに身を任せても生きていける時代であっても、野武士のように生き、次の建築の在り方をここに求めていった人たちというところにあると思われる。
これは、先輩建築家の激励とも取れ、このままの流れに迎合するのではなく、自分で道をきりひらいていってほしいという期待も込められている。
野武士たちの時代、企業も1980年代のバブル期の中で、モーレツ社員という言葉があるようにひたむきに目標めがけて働いていた。そんな時代のさなか、リクルートの創業者の江副浩正が「自ら機会を作り出し、機会を持って自らを変えよ」と言ったのは、もしかしたら槇文彦も建築界にこういったことを伝えたかったのではないかと考える。
そして、今の時代もリーマンショック以降、天災は絶えないものの、バブル期に勝るとも劣らない好景気が続いている。その中で、建築界のみならず企業でもベンチャーが多く生まれる世の中になった。そして、新しい価値を創造していくことで、野武士たちの時代とは比べ物にならないほどのスピード感でヒト・モノ・カネが動いているのが現状だ。そして、そのスピード感を培ってきたのは、テクノロジーの進化と理由付けしやすいが、大元をたどれば、テクノロジーの進化は人間なしにはなかったと考えると、単純に今の時代の野武士が増えたからだろう。
野武士が新しい価値の根幹を次々と世に出し、表現していくことで時代が変わっていく。
人生の在り方というのは、今後さらに変わっていくと思う。これは政治や金融経済がどうこうしてきたことではなく、間違いなく、価値を創造してきた人たちが変えたものだ。平和な時代を生きていく中での、違和感をほったらかしにするのが日々の生活の中で当たり前になりすぎると平和ではあるが、それが退屈や不満に変わることがある。その退屈や不満を解決していくことを実行することが、野武士の役目である。一方で、野武士自身はそれを使命であるかのように考えるので、役目とは全く思わないことが多い。
平和な時代だからこそ、当たり前のものに感謝をしつつ、野武士の気持ちで視点を変えて生活をすると、あなたも新しい価値の創造者になっているかもしれない。